オフィス移転に必要な原状回復の単価
オフィス移転をする際に必要なのが、原状回復の工事費用です。一般的な相場はあるものの、入居されているビルや現状、契約書の内容によって大きく差が出ますので、注意が必要です。
原状回復工事の相場
- 小規模オフィス:坪単価3万円~6万円
- 中規模オフィス:坪単価6万円~9万円
- 大規模オフィス:坪単価9万円~15万円
まず、一般的な原状回復工事の坪単価の相場を上に示しましたが、参考程度にしか使えません。参考程度にしかならない理由を、順番にご説明いたします。
工事業者が契約で定められている
入居時の契約で、原状回復工事を含むほとんどの工事は貸主側(ビルオーナー)が指定する工事業者に制約されています。
ビルオーナー側からすれば、信頼できる工事業者に依頼することで、ビルの資産価値を保ち、他の入居企業からのクレーム、トラブルを回避することができます。
一方、業者が指定となってしまうため、工事費用が高額になりがちです。
ハイグレードビルは高くなる
ハイグレードビルの場合、工事に下記のような制約があることが多いため高くなる傾向があります。
- 空調や電力などの制御を一括で行っており、入退去時にソフトのデータ変更が必要
- 入居中の企業に影響を与えないように、搬入搬出や工事可能な時間が夜間と決められている
- 二次請け、三次請けも企業規模が大きく工事管理費が高くなりがち
現状により大きく価格が変動する
入居時点は間仕切り壁の無い状態です。間仕切りが無い状態から、会議室、役員室、サーバー室、部署を分けるために設けた壁やドアを設置する内装工事を行います。業態によってはオフィスにも営業用のモデルルームがあったり、デザインにこだわっていたり、空調や水回りの改修などを変更していたりします。
原状回復工事では、これら壁などの設備をすべて撤去し元に戻す原形復旧をするため、費用が大きく変動するのです。
当然ながら、ほとんど手を加えていない場合、原状回復工事の費用は抑えられます。
事務所(テナント)の原状回復は、どこまで修繕するのか
事務所(テナント)物件の原状回復は、契約により差があるのも相場が安定しない原因のひとつです。
契約書に入居時点と同じスケルトンまで戻すことが明記されていたのなら、壁や天井などを解体して元に戻す工事を施工する必要があります。
一般に店舗や飲食店は、居抜き退去を除いてスケルトンに戻す工事が多く、オフィス物件は壁紙などがある状態に戻すことが多いです。
入居期間に関係なく通常損耗や経年劣化も入居者負担し原状復帰
一般的にオフィス(事務所)、店舗などの事業用(テナント)物件では、入居期間に関係なく通常損耗や経年劣化を含めて入居者(借主)の負担で原状復帰(入居時点の状態に戻す)することが多いです。
ただし、賃貸借契約書・特約に明記されていない場合、通常損耗や経年劣化は建物オーナー(貸主)負担で原状回復することになる可能性があります。明記されていないとトラブルになる可能性が高く、弁護士の力を借りて訴訟などをする必要があるかもしれません。
エアコンに注意
エアコンの使用状況によっては、補修や修理工事が必要になる場合があります。タバコの煙がエアコンにこびりつくなどした場合に、指摘されることが多いです。
またエアコン同様に換気扇にも注意が必要です。換気扇やダクトの汚れがひどく復旧や再生ができないとされた場合、ダクトを含めて交換することになるからです。
原状回復工事の相場は上昇傾向
原状回復工事に限らず、建設業界の工事費用は年々と上昇傾向です。主な原因のひとつに職人の慢性的な人手不足があげられます。国も建設業の人材不足に手を打っていますが、2012年(平成24年)以降、改善に至っていません。
今後も原状回復工事の坪単価は上昇すると思われます。また、新型コロナウイルスによるオフィス移転が増えてきていることも上昇理由のひとつに挙げられます。
参考:国土交通省 建設労働需給調査結果(令和2年8月調査)について
原状回復の見積りは、9割方高額
大半の場合、原状回復工事の見積もり金額は一般相場と比較して高くなります。
見積の項目が詳細化される
原状回復工事は、数ある工事の中でもシンプルな部類といえます。しかし実際に提示される見積書には、説明を受けても解りづらい項目が多くあります。項目が多くなれば、そこに単価が計上され、各工事の項目が詳細化されれば、理解しづらい事に加え、単価に積み上げにより、総体的に工事費が高くなる要因となります。
本来、負担の必要がない費用が含まれている
どこまで原状回復をするのか、原状回復の範囲が入居時の契約で事細かに決められているのなら別ですが、曖昧な部分が多く負担する必要がない費用が原状回復の見積書に含まれていることがあります。見積書だけでは紐解けない部分は、契約書や館内ルールと照らし合わせてないと正確な判断は困難です。
業者が指定されている
工事可能な業者が契約で定められている場合、競争が存在しないため、どうしても原状回復の見積もりが高くなります。しかし、適正な金額を算出し交渉することで、費用を低減することが可能です。
原状回復はトラブルが多い
ガイドラインは居住用物件向け
オフィスに限らず、原状回復はトラブルが多いため、国土交通省は平成10年(1998年)に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しました。
ただし、このガイドラインは「民間賃貸住宅」のものであり、住居用マンションをオフィスにしている場合を除いて、参考程度にしかなりません。
事業用の契約では、借りたときの状態に全て戻す「特約」が前提となり、内装を変更しない住居用のガイドラインでは一様に汎用ができません。
「民間賃貸住宅」のものとはいえ、住居用をオフィスとして使用していた場合は、このガイドラインにそって算定すべきとされた判例があるため、しっかりと確認するようにしましょう。
参考:国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
原状回復の判例
オフィスの原状回復で有名な判例として、東京高裁平成12年12月27日判決があります。
どこまで原状回復の義務があるかを争った裁判で、事業用物件の場合、貸主が借主の使い方を予想できないから、通常損耗や経年劣化も含めてテナント側(借主)が負担する特約が有効であるとされました。
ただし、特約の内容が曖昧であるため、特約が無効だとされた判例(大阪高裁平成18年5月23日判決)があります。特約の文言がどのようになっているかで判断が分かれるようです。
敷金や保証金を原状回復に使えないことがある
事業用物件の場合、退去までに原状回復を行うため、退去後に口座に振り込まれる敷金や保証金で原状回復の費用を賄えないことに注意が必要です。もちろん、交渉次第で変わることもありますが、賃借のルールからすると、好ましい回答が得られる可能性は低いといえます。
オフィスの原状回復を適正価格にするには
お伝えしたように、オフィスの原状回復費用は参考程度にしかならない相場しかなく、高額になりがちですが、適正な価格にすることもできます。
賃貸借契約書を細かく確認する
どこまで原状回復が必要なのか、賃貸借契約書の入退去に関する条項や工事範囲を示す区分表を読み込みましょう。
相見積もりをする
業者が指定されているのに、指定業者を変更する交渉をしようとする方もいらっしゃいますが、ほとんどの場合、業者を変更することはできません。但し、工事金額の正当性を測るには、一般業者の相見積書がもっとも有効となります。各社には、対象ビルのルールに沿った工事要件で統一させて依頼することが必須です。
プロに任せる
賃貸借契約書をしっかり読み込み、必要な工事内容を把握し、適正な相場を把握した担当者で交渉したとしても、思うような減額は難しいかもしれません。
仏の沙汰は僧が知るというように、専門家に依頼するのが、オフィスの原状回復費用を適正価格にする最良な選択といえます。
しかし、専門家に依頼したものの原状回復費用がほとんど減額できず、「原状回復費用+専門家への依頼料」が最初に出された「原状回復工事の見積書」よりも高くなってしまうリスクもあります。
そこで、おすすめなのが、完全成果報酬型のコンサルティング会社に依頼することです。
完全成果報酬型であれば、原状回復費用が減額できなかったとしても、原状回復費用の削減が低額であったとしても、専門家報酬が高くならずに済みます。
最初に提出された「原状回復工事の見積書」より、「原状回復費用+専門家への依頼料」のトータル金額が安くなる可能性があるのですから、オフィス移転を考えている、オフィス移転を進めているのであれば、相談してみてはいかがでしょうか。