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テナント撤去

テナント撤去に伴う原状回復

オフィスの移転や店舗の閉店などで物件から退去するとき、テナントに必要となるのが、撤去や原状回復です。

一言で撤去や原状回復といっても、テナントにより様々です。

物件を借りた時(賃貸借契約を締結したとき)に、どのような状態まで撤去する必要があるかビルオーナー(貸主)とテナント(借主)でどうかなどを決めているからです。

原状回復は入居テナントの負担

住居用の原状回復の指針として国土交通省のガイドラインがあります。このガイドラインでは原状回復を入居したときの状態に戻すことではないとしています。一方、事業用物件の原状回復は入居しているテナントの負担で入居した時点、開業前の状態に戻す契約であることが普通です。

また、テナント(事業用物件)の原状回復の工事施工は退去前に行い、工事が終了してから退去立ち会いになるという違いもあります。

※同じ原状回復という言葉でも、内容が大幅に異なります。ご注意ください。

賃貸借契約書や特約に原状回復について明記されていますので、確認してみましょう。

なお、民間の賃貸契約は、契約書が原則優先されるという判例が出ていますし、テナント物件は住居用のガイドラインに沿わないのが妥当である、という判例も出ています。

賃貸借契約で原状回復義務の根拠となる法律

賃貸借契約の主な法律として民法があげられます。居住用物件であれば消費者の権利を守る消費者契約法も適応になります。

改正前民法616条「第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。」で準用する同法598条「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる」と定められており、退去時に賃借人に賃借物の原状回復をする義務を負わせるものと解釈されています。

さらに、2020年4月に施行された改正民法では、原状回復義務について第621条に「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と明文化されました。

スケルトン戻し」になるかは契約書や特約による

テナントの壁や天井まで一切合切撤去し、建物躯体(コンクリート)がむき出しの状態にまでにする「スケルトン戻し」が飲食などのテナント物件では一般的です。

一方、オフィスビルの原状回復は壁や天井がある最低限の内装が整った状態にすることが多いです。

原状回復特約の例文

賃貸借契約書に記載する特約には次のような例文があります。なお、裁判の判例を考えると、具体的な金額まで細かく入れておくことが望ましいです。

「ハウスクリーニング、壁・天井のクロスの貼り替え、床フローリングは、賃借人が全額負担し退去時に交換するものとする。ハウスクリーニング費用は○○円、壁・天井のクロス貼り替え費用は○○円、床フローリング交換費用は○○円とする」

「本契約が終了するときは、賃借人は賃貸借期間終了までに造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない。原状回復のための費用の支払は保証金償却とは別途の負担とする」

ただし、この例文は事業用の賃貸借契約書に記載されることは少なく、主に居住用物件にて見られる事があります。

一方、賃借人が通常損耗分の原状回復費用を負担する旨の特約とはいえない(大阪高裁判決平成18年5月23日)とされた原状回復条項です。

「賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し、賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去し、本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡す」

店舗の原状回復はどこまで

一般的に店舗の原状回復は、入居した時点の状態に戻すので、スケルトンで入居したか、壁など最低限の内装がある状態で入居したかで原状回復の範囲が異なります。

どこまで原状回復を行うか(スケルトン戻しが必要か)も賃貸借契約書や特約に明記されていますので、確認するようにしてください。

また、オフィスビルに限らず、一戸建てやマンションの低層階を店舗や事務所としている場合でも、スケルトン戻しになることがあるので、契約書と特約を確認するようにしてください。

スケルトン戻しの費用

スケルトン戻しにどのくらいの費用がかかるかは、内装の状況により変わりますが、下記の項目があると工事内容が増し高額になります。

  1. 水回りの移設や設置
  2. レントゲン室など特殊な用途
  3. 換気設備を増設(焼き肉店などで、各テーブルに換気扇を設置しているなど)
  4. 個室の設置

スケルトン戻しの費用はケースバイケースであるので、可能な限り早く原状回復工事の見積もりを取得するようにしましょう。

また、スケルトンに戻すよりも、壁や天井がある最低限の内装が整った状態にする方が、原状回復の費用を抑えられそうですが、ほぼスケルトンに戻して内装を整えるなどのケースもありますので注意しましょう。

百貨店やショッピングモールのテナント撤去の場合

百貨店やショッピングモールの場合、壁や天井のコンクリートがむき出しの状態に戻すスケルトンよりも、最低限の内装が整っている状態に戻すことが多く、内装を解体撤去する工事がメインの原状回復になります。

ただし、過去の内装工事で入居時にあった壁を撤去した場合は、壁を造作する必要があります。

また、飲食店などで大幅な内装工事をしていた場合、カウンターや厨房機器などの内装解体工事の他、給排水設備工事、消防設備工事も必要になることが多く、原状回復工事を行う期間と費用がかさみますので、テナント側で解約予告通知を提出次第すぐに原状回復の見積もりを取得しましょう。

原状回復の工事業者は指定

ほとんどの場合テナントで推薦する工事業者で原状回復工事ができるわけではありません。

内装工事を含め原状回復を請け負える業者は、ビルオーナーにより定められていることが一般的です。賃貸借契約書や特約に指定業者について明記されています。必ず確認するようにしましょう。

ちなみに、指定された業者以外に依頼し退去したところ、再工事の費用を請求された例や、工事のやり直しを指示された事例があります。

思わぬ出費やトラブルを避けるためにも、工事業者の変更は避けた方が無難です。

居抜き退去は時と場合による

居抜き退去を希望する場合は、賃貸借契約書や特約に居抜き退去についての記載があるかどうかで、行動が異なります。

もし記載がなければ、ビルオーナーに居抜き退去の許可を得る必要があります。

以前は居抜き退去をOKしていましたが、入居していたテナントが最近倒産し、原状回復費用をビルオーナーが負担せざるを得ない状況になったため、今後は居抜き退去NGとしたビルオーナーもいらっしゃいます。

あいまいにせず、必ず確認するようにしましょう。

なお、原状回復工事の工事期間は規模によって異なるが、1か月近くかかる場合もあり、退去日までに工事を完了させておかないと、違約金・損害金を請求されます。居抜き退去を通すか原状回復をしてしまうか、解約予告通知後に素早く判断することも大切です。

居抜き物件は原状回復義務も譲渡される

入居費用を抑えるために、居抜き物件を探し入居した場合、原状回復を行う義務も譲渡されます。

以前のテナントが入居した当時の状態に戻す義務も引き継がれるので、想像以上の費用が原状回復にかかってしまったという事例も少なくありません。

産廃に注意

テナント撤去の際に発生したゴミは産業廃棄物として処理する必要があります。

業者に任せれば安心というわけにはいきません。

依頼した業者が不法投棄していた場合、産廃に会社の名前がある看板が含まれていたとしたら、要らぬトラブルに巻き込まれてしまいます。

産業廃棄物収集運搬業、処分業の許可を得ているかどうか確認し、産業廃棄物管理票(マニフェスト)で適切に管理するようにしましょう。

原状回復のトラブル事例

原状回復のトラブルを避けるには、とにかく詳細まで賃貸借契約書・特約に記載することが次の判例からも伺えます。

使用賃借 原状回復義務の判例

平成17年の最高裁判決(2005年12月16日判決:事件番号平成16年受1573 敷金返還請求事件)は住宅向けの判決ですが、オフィスや店舗など事業用不動産を含めた原理原則という考え方とされています。

裁判要旨

1 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには、賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき、賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識して、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。

2 建物賃貸借契約書の原状回復に関する条項には、賃借人が補修費用を負担することになる賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗の範囲が具体的に明記されておらず、同条項において引用する修繕費負担区分表の賃借人が補修費用を負担する補修対象部分の記載は、上記損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえず、賃貸人が行った入居説明会における原状回復に関する説明でも、上記の範囲を明らかにする説明はなかったという事情の下においては、賃借人が上記損耗について原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。

解説

曖昧な表現では、原状回復の特約が認められないとされた判決です。賃貸借契約書の原状回復の事項や特約で明確に記載することが必要とされました。

テナント原状回復の判例

東京高裁平成12年12月27日判決では、民間賃貸住宅とは異なりオフィスビルの賃貸借契約においては、賃借人が原状回復条項や特約に基づき、通常損耗をも除去し、賃借当時の状態にまで原状回復して返還する義務が本件にはあるとされました。

裁判要旨

1 本件賃貸借契約における原状回復条項では、「本契約が終了するときは、賃借人は賃貸借期間終了までに造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない。」、「本条に定める原状回復のための費用の支払は保証金償却とは別途の負担とする。」等と記載されている。オフィスビルの原状回復費用は、賃借人の使用方法によっても異なり、損耗状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法により異なる費用負担は賃借人が負担することが相当であるので、一般にこのような特約がなされる。

2 賃借人の入居期間は賃貸人に予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であり、賃借人が退去する際に、賃借時と同等の状態まで原状回復させる義務を負わせる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があると考えられる。

3、4 略

解説

通常損耗や経年劣化も含めてテナント側が負担する原状回復の規定が有効とされた判例です。この判例からも、事業用物件と居住用物件の原状回復は同じ言葉でも内容が異なることがお分かりいただけるかと思います。

裁判の費用

裁判で決着をつけることになると、弁護士費用と訴訟費用(裁判所手数料・郵送代)が必要です。

裁判所手数料は、訴訟目的の価格が100万円までは10万円ごとに1,000円、500万円までは20万円ごとに1,000円、1,000万円までは50万円ごとに2,000円と定められています。

裁判所から原告・被告に訴状などを送付する郵送代は裁判所によって異なります。

弁護士費用は、着手金、報酬金、法律相談料、日当などがあります。顧問契約をしている、弁護士保険に加入しているなど状況により変化しますので、個別に確認するようにしてください。

テナント撤去の費用を抑えるコツ

憶測でテナント撤去費用を考えるのではなく、実際に見積もりを取得することが費用を低減させるコツです。

退去までの期間が長ければ、見積もりをレビューし工事業者と交渉することで費用を低減できるからです。逆に期間が短ければ業者からの回答を待つ時間もなく、業者から提出された高い見積もりのままで工事をしないといけなくなります。

なお、ファッションや物販と飲食などのカテゴリによって工事の坪単価が違いますし、ビルの立地条件、管理会社、指定業者などによっても、金額が異なることから、原状回復の相場というものはありません。

居抜き退去を考えていたとしても、どうなるかわかりませんから、原状回復の見積もりは退去が決まったら、一日でも早く取得しましょう。

場合によっては、契約解除の通知をする前に、原状回復の見積もりを依頼しても良いかもしれません。

また、不要になった机やショーケースなどを売却し、処分費用を抑えることもできます。売却する場合は問題にならないように、信頼のおける業者に売却するようにしましょう。

原状回復の指定業者見積りは高い

先ほどもお伝えしたとおり、原状回復の相場はなく、業者が指定されているため原状回復の工事費用は高くなりがちです。

退去までに時間があれば、交渉してテナント物件に応じた適切な費用にすることで、費用を抑えることができます。

自分たちで交渉してもよいのですが「餅は餅屋」というように、その道のプロに任せた方が情報と経験を持っているのでトラブルもなくスムーズに進み、今後の経営にもプラスになります。

JLAでは原状回復の適切な費用の算出や交渉を、完全成果報酬型で行っています。まずはお気軽にご相談ください。

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