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原状回復工事ガイドラインとオフィス移転

国土交通省は原状回復工事についてトラブルが多いことから、平成10年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を制定し、平成16年、平成23年には裁判事例、Q&Aを追加し改訂しています。

ただし、原状回復のガイドラインは、民間の賃貸住宅をターゲットとしたものであり、事業用のオフィス、店舗は含まれておりません。

しかし、オフィスや店舗など事業用であっても使用状況によっては、原状回復ガイドラインが適応されるのが妥当とされることもあります。

ガイドラインが適応される小規模オフィス

社長+従業員数人の規模で、オフィス物件やテナント物件ではなく、住居用マンションの一室をオフィスとしている場合や、マンションやアパートをエステサロンにしている場合、原状回復ガイドラインが適用されることがあります。

原状回復ガイドラインにそって原状回復費用を算出すべきとした判例

「原状回復ガイドラインにそって原状回復費用を算出すべき」という判例についてご紹介します(東京簡裁 平成17年8月26日判決)。

築20年の居住用マンションを事務所として使用しましたが、コピー機とパソコンのみ設置し2名で使用していたため、使用状況が居住用と大差ないとされ、原状回復ガイドラインにそって原状回復費用を算出すべきという判決が出ました。

居住用物件で使用状況が居住しているのと変わらなかったと考えられるため、店舗用物件やスケルトン物件であった場合は、原状回復ガイドラインにそった費用算出にはならないと考えられます

原則、賃貸借契約書・特約が優先される

日本には「契約自由の原則」があります。「契約自由の原則」とは、法令の制限内で契約当事者の意思の合致によって契約内容を自由に決めることができるとする民法の基本原則のことです。

以前は条文として明文化はされていませんでしたが、2020年4月に改正施行された民法において明文化(第521条)されました。

また、民間の賃貸契約は、契約書が原則優先されるという判例(東京高裁平成12年12月27日判決)が出ていますし、テナント物件は住居用のガイドラインに沿わないのが妥当である、という判例も出ています。

原状回復ガイドラインと賃貸借契約書の内容が反する場合は、賃貸借契約書・特約の内容が優先されますのでご注意ください。

原状回復を定めた例文(テナント・店舗向け)

明渡し時の原状回復を定めた契約書の例文について2種類ご紹介いたします。

共に、乙が入居者で経年劣化(通常損耗)を含めて原状回復する契約となっています。

・乙は通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を含め本物件を原状回復しなければならない。原状回復は別表第5の規定に基づき乙が行う。

・乙は乙の費用により新設又は付加した諸造作、設備等及び乙所有の備品等を乙の費用負担により撤去するとともに、乙による本物件の変更箇所及び汚損、損傷個所を修復し、壁・天井・床仕上材の塗装、貼替を行った上で本物件を引渡当初の原状に復して甲に明渡す。

原状回復はどこまでするのか?

原状回復工事において、最もトラブルになる可能性のあるポイントが「どこまで原状回復するか」です。

ガイドラインでは、原状回復とは借りた時点(契約開始時)の状態に戻すことではないとされ、経年によるクロスの変色などは入居者の負担ではなく、オーナーの負担となっています。経年によりクロスが変色したから、原状回復工事でクロスを貼り替える必要はないということです。

ただし、クロスにシールを貼り付けた、装飾を加えた場合、入居者負担でクロスを貼り替えることになる可能性があります。

重要なことですので繰り返しますが、契約書や特約に明記されている場合は、契約書・特約の内容が優先されます。

原状回復工事の範囲は、耐用年数・経年劣化を考慮する

耐用年数グラフ

オフィス、店舗に設置してあるカーペット、クロスなどは耐用年数が6年、木製の戸棚は8年、洗面台などの給排水設備は15年と定められています。

※耐用年数とは、償却資産税を計算するとき使用する耐用年数のことです。

ガイドラインでは耐用年数後(カーペットなら6年)に残存価値が1円になる直線(曲線)を描き、退去時の価値を算出し入居者とオーナーの負担割合を決めるようになっています。

ただし、入居して6年後に退去するとなったとしても、クロスに絵を描いていたり、壁の下地に補修が必要な程度の穴をあけていたりしたとしたら、そのままでは使えませんので、補修費用(原状回復費用)を入居者(借主)が負担する必要があります。

また、オフィスでペットを飼育している会社などの場合、そのまま次の入居者に入ってもらうことができないことが多いため、入居者(借主)の負担で原状回復工事を行うことになります。

重ねてしまい申し訳ないのですが、、ガイドラインよりも賃貸借契約書が優先されますので、「退去時にクロスの張替え」が原状回復として契約書に明記されていた場合、クロスが綺麗であったとしてもクロスを貼り替える原状回復する義務が発生します。

原状回復工事のグレードアップに注意

原状回復工事が必要になったとき注意すべきことは、原状よりもグレードアップする場合です。

スケルトン状態に戻す原状回復工事の場合は関係ありませんが、居住用マンションをオフィスとして使用しており、退去時にクロスの貼り換え工事が必要になったとき、以前使用していたクロスよりも高価なものに貼り替えた場合、原状回復ガイドラインではグレードアップとみなされ、グレードアップ部分の費用はオーナー負担になります。

原状回復工事の見積書を確認する際は、グレードアップする仕様になっていないか、確認するようにしましょう。

ちなみに、オフィスの原状回復工事の相場は坪3万円~30万円と非常に幅広いので見積を取得したら、よく内容を確認しましょう。

トラブルの多いクリーニングと相場

原状回復ガイドラインではオーナー(貸主)の負担とされている退去時のハウスクリーニングは、原状回復のトラブル・敷金返還トラブルとして多く発生しています。

トラブルになってしまう理由のひとつに、契約時にハウスクリーニングの費用が明確になっていないことがあげられます。

もし、賃貸借契約書・特約にクリーニング費用を負担すると記載されているのに、金額について具体的な記載がないのであれば、早めにハウスクリーニングの金額についての情報を得る、貸主や管理会社から回答をもらうようにしましょう。

なお、ハウスクリーニングの相場は1平米あたり1500円で、汚れが酷ければ費用が高くなります。

原状回復は出口ではなく入口戦略(入居時)で決まる

多くの方は、原状回復を出口戦略だと考えていますが、ガイドラインやトラブルの事例を紐解いてみると、賃借の契約時に「どのような契約にするのか」が最大のポイントといっても過言ではありません。

賃貸借契約・特約の内容で、原状回復工事の範囲や方法などが決まるからです。

オフィスや店舗物件を借りる前から、退去時に行う原状回復工事をどこまでするのか、工事の区分などを建物オーナーと入居者の間で明確に定めておく必要があるのです。

曖昧な契約になればなるほど、出口(退去時)のトラブルを招いてしまいます。

テレワークが一般化しオフィス縮小化の流れがある2021年は、オフィス移転先にマンションを選択してもおかしくはありません。新しいオフィスの契約をするときは、必ず退去時のことまで考えて契約するようにしましょう。

事業用物件の原状回復工事はプロに相談しよう

本来であれば、原状回復は出口ではなく入口戦略が大事なのですが、オフィス移転が決定され、原状回復工事が必要になったときに、慌てて勉強して交渉するケースが多いように思えます。

「今回の原状回復工事は諦めて、次回までに準備しておこう・・・」と思う必要はありません。今回の原状回復工事であっても、契約書の内容が曖昧であり様々な解釈が成り立つ場合は弁護士に交渉してもらうこともできますし、10坪以上であれば原状回復工事のコンサルティング会社に依頼し内装工事(原状回復工事)費用について業者と協議してもらい、トータル費用を抑えられる可能性もあるからです。

善は急げ、早速相談してみましょう。

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