原状回復費用の正しい会計処理と節税
原状回復費用の会計処理は、中小企業、個人事業主と上場企業や上場企業の連結子会社で方法が異なります。
まずは、中小企業と個人事業主の原状回復費用の会計処理方法についてお伝えし、上場企業と上場企業の連結子会社の会計処理方法についてお伝えします。
なお、中小企業でも上場企業と同じ方式で会計処理することも可能です。
中小企業や個人事業主の場合:修繕費で処理
多くの中小企業や個人事業主の場合、原状回復費用は「修繕費」として計上します。
ただし、原状回復工事の見積書や請求書の項目を「原状回復」とすることが大原則です。
原状回復費用であることが明確にわからないと、修繕費での処理が認められない場合もありますので、もし見積書や請求書の内容が「原状回復」となっていない場合は、業者に連絡し再発行を依頼するようにしましょう。
中小企業や個人事業主:敷金で原状回復費を相殺した場合
まず、契約時の敷金の会計処理についてみていきましょう。
借方 | 貸方 | ||
敷金 |
(敷金の金額) |
現金or預金 |
(敷金の金額) |
借方に敷金、貸方に現金or預金で敷金を全額計上します。
原状回復費用=敷金のとき
原状回復費用と敷金が同額であった場合は、次のように会計処理します。
借方 | 貸方 | ||
修繕費 |
(敷金の金額) |
敷金 |
(敷金の金額) |
敷金が返金されたとき
敷金から原状回復費用を差し引かれ、残りが返金されたときは、次のように会計処理します。
借方 | 貸方 | ||
修繕費 |
(原状回復費用) |
敷金 |
(敷金の金額) |
現金or預金 |
(返金された金額) |
|
|
「固定資産(償却資産)」に資産計上しているものは「固定資産除却損」として会計処理
入居工事で固定資産(償却資産)建物、建物付属設備として資産計上し、オフィス移転先などに持っていかずに廃棄するものは「固定資産除却損」として計上します。
廃棄業者に廃棄証明書の発行を依頼し保存しておくようにしましょう。
なお、建物付属設備となるものは下記のとおりです。
- 配電盤や非常用発電設備などの電気施設(工場の場合は、電灯用配線と照明)
- 給水用タンク及び給水設備に直結する井戸など
- 空調設備(大規模なもの)
- 格納式避難設備
- 自動ドアの開閉装置(ドアは建物になるので注意)
- 陳列棚やカウンター
- 移設可能な稼働間仕切り(パーテーション)
詳細は国税庁のホームページや税務署にてご確認ください。
特別損失として処理する方法もある
オフィス移転は日々の業務であるものではなく、特別なものと考えられますから原状回復費用、引っ越し費用などを「特別損失」として計上する方法もあります。
「修繕費」で原状回復費用を処理するか「特別損失」で処理するかは、株主や税務署、税理士への説明、税効果などを考えて判断するようにしてください。
上場企業や連結子会社の場合の原状回復費用
上場企業や連結子会社の場合は、資産除去債務を使って原状回復費用を処理します。
資産除去債務とは
資産除去債務を簡単にいうと、将来負担すべき費用を事前に負債として計上するものです。
資産除去債務を使うと、将来負担することになる費用が財務諸表で事前にわかるメリットがあります。
平成22年(2010年)4月1日以降の開始事業年度より、国際財務報告基準(IFRS)に対応する目的で上場企業の会計基準として適応されるようになりました。
なお、連結子会社以外の中小企業には義務付けられていません。
資産除去債務を負債として計上するようになったのは次の理由があります。
- 投資情報として将来の負担を財務諸表に反映させるため
- 日本基準と国際財務報告基準(IFRS)の差異を縮小するため
ちなみに、米国では2002年に資産除去債務の開示が義務化されています。日本でも電力業界の原子力発電所など限られた分野では、従来から将来の費用を引当金処理していました。
資産除去債務の対象となるもの
資産除去債務の対象になるものには、有形固定資産、原状回復費用の他、リース資産、建設仮勘定も含まれます。
なお、処分(売却、廃棄など)は除去に含まれますが、遊休状態、用途変更などは除去に含まれません。
資産除去債務として原状回復費用を計上する方法
詳細な点は会計士に確認していただきたいのですが、おおまかな流れは次のようになります。
- 賃貸借契約書・特約、入居工事見積書(請求書)を確認し、退去時の原状回復費用を見積もります。原状回復のトラブル防止の観点から、契約時に原状回復費用についても見積もり、契約書や特約に反映させることをおすすめします。
- 国債の利率などを参考にインフレ率を考え割引率を決定し、除去見積費用、割引率、退去する年数で資産除去債務として計上する金額を決定します。除去見積費用500、割引率2%、5年なら、500/1.02/1.02/1.02/1.02/1.02=453となり、453を資産除去債務として計上します。
- 借方には建物などの資産名、貸方には資産除去債務として、上記で算出した金額を入力します。
借方 | 貸方 | ||
建物 |
453 |
資産除去債務 |
453 |
- 期末では、資産除去債務が増えますので、資産除去債務×割引率の金額を 借方に利息費用、貸方に資産除去債務として計上します。先ほどの例では1期目:453×02=9、2期目:(453+9)×0.02=9、3期目:(453+9+9) ×0.02=9です。
1期目の例
借方 | 貸方 | ||
利息費用 |
9 |
資産除去債務 |
9 |
- また期末では、減価償却費も計上します。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 |
(減価償却費) |
建物減価償却累計額 |
(減価償却費) |
- 除去時(退去時)は、期末処理と同じように、借方に利息費用、貸方に資産除去債務として計上し、減価償却の処理も行います。上記の例では、資産除去債務が時とともに増加し、(453+9+9+9+10)×02=10となります。さらに見積のときは500でしたが、実際には520となったとすると、借方に資産除去債務500(見積の金額)と費用(履行差額)20、貸方に現金or預金520として計上します。
借方 | 貸方 | ||
建物減価償却累計額 |
(建物の金額と同じになります) |
建物 |
(建物の金額) |
資産除去債務 |
500 |
現金預金 |
520 |
費用(履行差額) |
20 |
|
|
見積額に重要な変更が発生した場合は、新たな会計処理が必要になります。
また、費用配分額、利息費用は損金不算入となりますので、税効果をしっかりと考慮する必要があります。
一連の流れをみていきましたが、いかがだったでしょうか。難しい部分が多々ありますので、資産除去債務を実際に行う場合は専門家の力を使うようにしましょう。
賃貸借契約書に敷金が記載されている場合の簡便的な処理方法
原状回復費用を敷金で充当する場合、次のような簡便法を使用することが認められています。
- 入居時、借方に敷金、貸方に現金or預金として計上します。
借方 | 貸方 | ||
敷金 |
(敷金の金額) |
現金預金 |
(敷金の金額) |
- 敷金の一部が原状回復費用となり返還が見込めず5年間で費用配分することになりました。期末に、借方:費用(敷金の償却)、貸方に敷金として、配分した費用を計上します。原状回復費用が100としたら、100÷5年=20となり計上する金額は20となります。
借方 | 貸方 | ||
費用(敷金の償却) |
20 |
敷金 |
20 |
- 毎期末同様の処理を行います。
- 退去時は、借方に敷金の返却分として未収金、原状回復費用として費用(履行差額)、貸方に敷金を全額計上する会計処理をおこないます。
借方 | 貸方 | ||
未収金 |
(返金された敷金) |
敷金 |
(敷金の全額) |
費用(履行差額) |
(原状回復費用) |
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まとめ
オフィス移転に必ず必要となる原状回復費用の会計処理について、お伝えしました。
上場していない企業や連結子会社でない企業や個人事業主ならば簡単ですが、上場企業は注記すべき事項も細かく規定されていますので、お伝えした内容を鵜呑みにするのではなく、確認し間違いのないよう会計処理を行うようにしてください。