オフィス・事務所移転時の
原状回復費削減ノウハウ
2021.5.10
事業用物件:原状回復トラブル事例
一般的に、賃貸物件から退去する際、原状回復が必要です。ご存知の方も多いのですが、原状回復のトラブルは非常に多いのが実情です。しかし住居用物件と比較し、事業用物件の原状回復を巡るトラブルは水面下となっていることがもあり、表面化することは多くありません。
水面下のトラブルになってしまう原因として、事務所、店舗の原状回復は引き渡し日までに借りた時の状態に戻す必要があるのに対し、住居用は退去後に原状回復を行う点と、消費者契約法で個人への法的擁護があるため、関係性を維持したいという企業の意図がある点があげられます。
表面化した事例をみると、原状回復に非常に役立つ情報が満載ですので、ご紹介していきたいと思います。
事例1:小規模オフィスに適応されたガイドライン
原状回復ガイドラインは平成10年(1998年)に国土交通省から出され、平成16年(2004年)、平成23年(2011年)に裁判事例、Q&Aを追加する改訂がありました。ただし原状回復ガイドラインはあくまでも賃貸住宅に対するものであり、事業用物件には該当しません。
ところが、事務所として使用していたマンションを退去する際、「原状回復ガイドラインにそって原状回復費用を算出すべき」という判例(東京簡裁 平成17年8月26日判決)があります。
当事例では、事務所として使用するために設置したものは、コピー機とパソコンのみで、事務員も2名のみ。さらに居住用の築20年のマンションであることから、住居用の賃貸借契約と変わらないとされたからです。 ポイントは、事務所とはいえ住居用物件であり使用状況も住居用と変わらない点です。もし住居用と使用状況が同じであるのならば、この事例と同様になると考えられますが、店舗・オフィス用の物件であればガイドラインは該当せず、賃貸借契約書に記載されている内容になると考えられます。
事例2:賃貸借契約に付された原状回復条項により、通常損耗まで原状回復義務がある
新築のオフィスビルに入居し、5年10か月で退去した際に原状回復費用でトラブルになった事例(東京高裁 平成12年12月27日判決)です。
当事例では、賃貸借契約に原状回復条項があり「本契約が終了するときは、賃借人は賃貸期間終了までに造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない」「本条に定める原状回復のための費用の支払は保証金償却とは別途の負担とする」とされ、造作物については「現状を変更する場合には賃借人の負担により行うものとする」などとの記載がありました。
上記の契約内容により、「本契約締結時の原状に回復」することが求められていることから、通常損耗や経年劣化も含めテナント企業様が費用を負担し、耐用年数などは関係なしに入居時の状態にまで原状回復し返還する義務があると判断されました。
ポイントは、入居時の契約により原状回復の範囲や負担割合が決まるという点と、契約自由の原則(近代私法の三大原則であり、平成29年(2017年)の民法改正により明文化)です。別の言い方をすれば、入居時の契約がどのようになっているかで、原状回復の復旧範囲の負担が必要になるかが物件により変化します。
事例3:スケルトンで入居した物件を居抜きでの退去
スケルトン状態で入居した店舗を退去する際、原状回復費用を払えないなどの理由で次の借主にドア、壁、天井、床などをそのまま譲渡する(居抜き)ケースもあります。
以前は、飲食店に多い形式でしたが、最近は通常のオフィスにも居抜き物件が出てきています。
居抜きの場合トラブルになりやすいのは、下記の点です。
- 退去時に壁や天井などの壁紙を貼り替える費用の負担割合
- リース品の譲渡はどうするのか(リース会社との交渉が必要
- 不用品の処分はどちらが負担するのか
- 内装や設備、什器など償却資産の扱い(個別に耐用年数で計算する場合もあれば、一括し低価格で譲渡するなど多彩)
さらに、スケルトンに戻す原状回復義務も次の借主(テナント)に移行するため、次の借主が退去する際には、スケルトンに戻す必要があることにも注意が必要です。 原状回復を行う退去よりも金額が抑えられますが、原状回復費用を払わないで済むケースはほぼありません。交渉する項目が多くトラブルになりやすいため、逆にコストアップになることも考えられます 。
事例4:居抜きで入居した物件をスケルトンにして退去
居抜きで入居した物件をスケルトンにするときにトラブルになるのが、原状回復の範囲です。
スケルトン状態の写真や、以前の入居者が行った工事(B工事、C工事)の内容が明確に分かれば良いのですが、ほとんどの場合、ビルオーナー側の資料保管など、明確な根拠が残っていない場合があります。原状回復の見積もりを取得し、賃貸借契約書や特約、図面を見比べ、ビルオーナー・工事業者と工事内容、負担割合などを交渉し、原状回復工事を行うことになります。
賃貸借契約が優先されるのが基本
上記の事例から、オフィス・店舗は入居時に結んだ賃貸借契約書、特約が優先されるのが基本であると考えましょう。
もし、契約書に記載されている原状回復について不明瞭な部分があるのなら、トラブルの原因になるか、トラブルを回避するために原状回復の見積もりとおりの金額を受け入れるか、早めに交渉をしてビルオーナー、管理会社、テナントが三方よしになるようにするしかありません。
しかし、通常業務に加えて移転業務が追加され、さらにオフィスビル特有のルールや不動産業界の慣習などに左右され、余裕がなくなってしまい交渉し原状回復費用を減額することなく発注を行ってしまう企業様が9割を占めます。
少しでもオフィス移転のトータルコストを抑える必要があるのなら、可能な限りお早めにJLAへご相談ください。